富山県教育工学研究会 会長 山西潤一
平成から令和へ、いよいよ新しい時代が始まった。思えば平成時代の30年間は情報通信技術の飛躍的進歩とともに、社会基盤はもとより学校の情報環境も急速に変化した時代であった。平成になる何年か前、確か昭和60年と記憶するが、当時の臨時教育審議会で、情報化時代を見据え、全ての人々が情報手段を適切に使いこなす能力を身につけることの必要性が議論され、学校教育での情報教育がスタートした。
具体の教科になったのは、平成元年の学習指導要領改訂で、中学校の技術家庭科に、新たな選択学習領域として「情報基礎」が設置され、情報活用能力の基礎教育が始められた。同時に小学校では「コンピュータ等に慣れ親しませること」、中学校では技術家庭科で習得した情報活用能力を、数学や理科、社会などの教科の中で活用し学習を深める手段としての活用能力の育成が求められた。高等学校でも同様に、普通教育の中で数学、理科などにコンピュータに関する内容が取り入れられた。
しかしながら、この時代は、中学校の技術科の教員や限られた教員がその任にあたって、全ての教員が指導はもとより自らの活用も心もとない時代であった。その後、平成9年には、情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議の報告書で、情報活用能力が、「情報活用の実践力」、「情報の科学的理解」、「情報社会に参画する態度」として焦点化され、情報教育の目標が明確になった。平成13年2001年には、e-Japan戦略のもと2005年に世界最先端のIT国家を目指すべく、様々な分野でのIT革新が進められ、それに伴い学校教育の情報化も進んだ。
この趨勢は先進諸外国も同様で、教育の情報化が世界的規模で進行した時代だ。日本はITの技術では世界トップクラスであったが、教育の情報化のインフラ整備や教科での活用、情報教育の教科化と体系的指導という面では、英国やオーストラリア、シンガポール、韓国などに比べ遅れを取ってしまった。教育の情報化のために文部科学省が積算した予算が、地方財政措置予算として位置づけられたため、必ずしも教育の情報化に使われなかった。このため、地域によって格差が広がり、全国的には必ずしも十分な整備が進まなかった。今でもその状況に変わりはない。
こんな現状の中で、新たな時代に向けた教育のスタートである。2020年からは新学習指導要領に基づく教育が始まるのだ。それは取りも直さず、2030年以降の未来社会、いわゆるSociety5.0時代を生きる子どもたちのための教育だ。このSociety5.0時代のキーワードはIoTとAIだという。IoTで全ての人と物がつながり、新たな価値が生まれる社会。イノベーションにより、様々なニーズに対応できる社会だという。しかし、ここで、新たな価値を生み出したり、様々なニーズに対応する社会を実現する主体は誰か。創造と革新をもたらすのは紛れもない、そこで生きる人だ。そのような能力を育てる教育が、次期学習指導要領の中に強く意識されている。生きて働く知識・技能の習得、未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成、学びを人生や社会に活かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養、これらは全て次の時代に必要な資質・能力である。IoTやAIの前提はいつでもどこでもだれでもがインターネットを活用できるユビキタス環境だ。先に述べたとおり、我が国の社会情報環境、特に学校の情報基盤整備や学習の道具としてのタブレット普及はまだまだ十分とは言えない。
新しい教育をするためには、それなりの環境が必要である。IoTやAI時代の問題解決能力を育成するプログラミング教育の内容も問題だ。小学校では単に体験すればいいという安易な考えでは、プログラミングを情報科学の基礎に位置づけ、次代が求める問題解決能力の育成に不可欠の学習内容としている先進諸外国に遅れを取ることは目に見えている。小学校から高等学校までの体系的な学習カリキュラム、当該の教科で発達段階に応じて指導できる教員の育成など課題も多い。
富山県教育工学研究会では、発足当時から、次代を担う子どもたちの教育の未来を志向しながら、明日の授業づくりを考えるという実践知の開拓と普及啓発活動を行ってきた。新時代の教育を担う先生方が、一人でも多くこの研究の輪に加わってくださって、未来の子どもたちのための実践研究の輪が、大きく広がっていくことを期待したいと思います。